Birthday Birthday,...happy?


 目覚めたときは、普通の朝だった。
 薄曇りで、カーテンを引いたら途端に日が差してきて、洗濯日和だと思ったものだ。
 テレビをつけたら、花粉情報と全国津々浦々の入学式や入社式の模様を繰り返しニュースががなっていた。

 昼過ぎ、新宿の穴場にあるオープンカフェで綾子と合流して、福島方面の軒猿の情報を照らし合わせた。
 夕方には、法事を終わらせた直江が合流する。景虎を途中で拾ってくると言ってたから、夜はわりと豪勢な食事が期待できる。
 コーヒー1杯で我慢するか、と思っていたら、綾子がケーキメニューをこれ見よがしに押し出すものだから、ああ、ねーさんが食べたいなら面子を保ってやらねばなるまい、といちばんに目に付いたシブーストを注文した。
 食べ終わったころに直江から綾子の携帯にメールが入って、報告から雑談に切り替わっていた打ち合わせは一旦終わらせて合流することにし、会計しようとして伝票をつかみかけたら、さっきトイレにたった隙にもう払われてた後だった。
 店を出てから不審げに礼を言ったら、綾子に笑いながら額を小突かれた。
「去年あんだけ大騒ぎしてたくせに」
 あ、そうか。
 今日は宿体、千秋修平の誕生日だ。
 気づいてから、すこし歯車が狂った。

「直江、おめ、線香くせえ!」
「袈裟で来なかっただけマシだと思え」
 直江にかるくにらまれて、千秋は口を抑えた。
 高耶がそっと寄ってきて、
「・・・・・・俺、ちょっと酔いそーだった」
 すこし青い顔をして告白して、綾子が爆笑し、直江がすこし情けなさそうに眉を下げた。
 前にも一度来たことのある、夜景の綺麗な店で当たり前のように直江の驕りで寿司を食べようとしたら、ビールのグラス掲げた乾杯の言葉が
「誕生日に乾杯」
 で首筋がちょっとこそばゆかった。
「柄でもねえ」
 なんていいながら、酒の酔いがいつもより甘く早かった。

 ふわふわした気持ちで、今日はタクシー使って帰ろうと思ったら、
「千秋、」
 ビール3杯で首筋真っ赤にした景虎に呼び止められて、どう見てもポケットに入れっぱなしで忘れていたらしいハッカアメ投げられた。
 キャッチしながら首かしげたら、
「誕生日プレゼント」
 なんてニヒヒと笑われた。酔ってる。あいつ絶対酔ってる。

 直江と一緒にホテルのエレベーターに乗ってくのを見送って、タクシー乗り場までねーさん送りがてら見上げた月は、桜の枝のフレームに収まっていた。
 胸がさわさわしたのは、安田長秀じゃなくて、眠ってる千秋修平の記憶なのかもしれない。
 タクシーに乗るねーさんを見送ったら、やっぱ歩いて帰ろうと思って、桜の間を吹き抜ける冷たい風の匂いをかぎながらてくてく歩いて、でもやっぱり1キロくらいで挫折して路肩で右手上げていた。

 ふわふわしたような気持ちで家に戻ると、玄関のドア開けたとたんに覚えのあるかすかな気配がして、でも意外と律儀なあいつは絶対靴は脱いであがるから、叩きに靴がないのはもう出て行ったあとなんだろう。
 でもすりガラス越し、浴室の電気がついてて、消し忘れか、なんて舌打ちしながら半開きになってた脱衣所の引き戸を開けたら、上からタバコが1カートン落ちてきて、ぽすっとマヌケな音を立てた。黒板消しの要領だ。あの野郎。
 たぶんこないだ泊めた礼なのだろうが、なんだか相手が高坂なだけに、タイミングを読まれたみたいで、千秋は悲しいのか嬉しいのかわからない呻きをうぐぐと漏らしたりしてみた。