come back the outsider
寝室の戸口に立ち、手際よく帰る支度をする高坂を、パジャマのまま腕組みして眺めながら、千秋は低い声を押し出した。
「それで?結局、なにを言いたかったんだ」
「ああ、それか」
千秋の前を横切り、リビングのドアで振り向いて、高坂はいつもの怜悧な笑みを浮かべた。
「お屋形様が復活した」
「なに……!」
思わず身構える千秋をまなざし一つで制し、高坂はことばを継ぐ。
「だが、それより重要なのは成田譲という少年だ。
いまは一切記憶を失った景虎のただの友人だが」
高坂が笑みをしまう。
その真剣な表情に、思わず千秋は動きをとめた。
「その男こそ『闇戦国』最大の脅威。
扱い方を間違えれば、『闇戦国』だけではなく、この世のすべてが滅びる」
「な…んだと?」
千秋は、高坂の口から紡ぎだされることばの重さに息を呑んだ。
「下手な怨将に利用されれば、取り返しがつかなくなることは必至だ」
「……その正体、何者だ?」
「その目で確かめろ」
コートの裾を翻し、高坂は歩み去ろうとする。
思わず身を乗り出した千秋は、肩越しに振り向いた高坂の目に射すくめられた。
「直江に伝えろ、『成田譲から目を離すな』とな。
ではまた会おう、安田の」
(……!)
冷酷な策士・高坂弾正の笑みを残し、ドアが閉まる。
千秋は拳を握って立ち尽くした。
(……松本)
高坂に乗せられているようで癪には障るが、ひどい胸騒ぎがする。
壁をひとつ拳で叩いて、千秋は舌打ちをした。
数時間後、レパードの運転席に乗り込みながら、千秋は頭を掻いた。
(見るだけ、見るだけだ)
言い訳しながらも、頭のどこかでは分かっている。
この足はふたたび、確実に向かっている。
血の騒ぐ戦場へ。
◆2巻の「高坂に会った」(by千秋)を妄想してみました。
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