夜半に目覚める、
 ふとんのなか、体温。
(ああ、まだいる)
 そう思って手を伸ばす。
 なめらかな肌に触れる。
 眠たげに振り返るあたたかな体。

「犬か、貴様」
 いつもは憎たらしげな声も眠さでテる。
「いいじゃん」
 千秋は鼻をくっつけて、
 しばしその髪の、肌の、
 すこしはなれていてもその存在を示す
 彼独特の上品な香りを吸い込む。
 首筋にかかるとくすぐったげに身をすくめる、
 その仕草がおかしくて、何度も往復する。
 やがてキスに変わる触れ合いのための前戯。

 挨拶もなしに出て行く白いコートの、
 翻って視界から消えたあとも、
 まだ彼はそこに居る、腕の中で眠っている。
 まどろみの中、そんな夢を見るのも、
 彼ののこすかすかな香り、
 残っているからに違いない。

 認めるのは癪だけど、
 口の減らない実体よりも、
 夢の中、彼の肌に触れたあと、
 目覚めてすこし寂しいのは、
 気配がまだ残り香に包まれて、
 布団にいるからに違いない。


material by 蝉と夏と君