座卓を前に正座して背筋を伸ばし、 すっとペンを降ろす。 その動作があまりにも決まっていて、思わず見とれたらしい。 はっと気づくと、千秋は部屋の入り口で、呆けたように立ち尽くしていた。 気づいて、高坂が首をめぐらす。 「どうかしたか」 赤い唇が意地悪く笑っている。 「お前が字を書くとこなんて想像したことなかったぜ」 そう言うと、壁にもたれて腕を組んでいた高坂はすっと目を細め、呆れたように唇の端を吊り上げた。 「夜叉衆御中、で年賀状でも書いてやろうか」 「正月まで生きてたらな」 千秋は肩をすくめ、引き続き、止めていた動作――珈琲を入れるためにつけていたガスを止め、煮立ったやかんの湯をドリッパーに注いだ。 「最近ご無沙汰だったのはなんで」 「いろいろと忙しいからな」 「『高坂』が?公彦くんが?」 千秋は意地悪く、親しげに今生の名を呼んでやった。だがそんなことは高坂にはどうでもいいようで、立ち上がって紙をポケットにしまいながら、 「まあ、いろいろということだ」 はぐらかすような、真剣なような、神妙な声音でそう言った。 台所で、立ったまま向かい合って黙ったままコーヒーを飲み、雪に気づいた千秋がベランダのある居間に移動して、振り向いたら、もう高坂はいなかった。 テーブルの上には白いマグカップがちょこんと乗っかっているだけ。 椅子にかけていたコートも消えていて、ドアの閉まる音さえしなかった。 (まったく、いつもユウレイみたい現れたり消えたり) 嘆息しながらそう思いかけて、千秋は思わず笑ってしまった。 (もともとおれら、ユウレイだっつの) 窓の外、降る雪が激しい。 積もるだろうか、確かめようとガラスに顔を近づけたとき、かさ、と書き損じのメモがくずかごの中で崩れた。 興味をもち、くずかごに手を突っ込む。 千秋が宿題をやりかけたルーズリーフを勝手に使ったようだ。 ルーズリーフと高坂、というのが妙にヘンな組み合わせに思えた。 『前略 』 そのあとには何もない。書いたのだろうか、書けたのだろうか。几帳面で角ばった、楷書よりは行書のような、ペンなのに筆で書いたような綺麗な筆跡。おおよそ若者の字ではない。 そして右下にも何か。ふと気づいて目をやると、 『気にくわん』 小さく走り書き。千秋は噴き出した。 おそらく、千秋が読むことを想定したのだろう。 それとも、なにか字が気に食わないのか。 とにかく高坂らしいような、らしくないような。 (それにしても、高坂の奴、いったいなにを書こうとしてたんだろう) それは高坂のみぞ知る。 御館さまへのラブレターか、それともなにか謀りごとか。 とりあえず千秋に残されたのは、続きが空白になったままの手紙だけである。 |