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目覚めるとすでに部屋に人の気配はなく、喉は楽になってはいるものの、声を出すのがつらいのは相変わらずだった。 熱もまだすこし残ってる気配。だるさは抜けていない。 断続的に眠ったり目覚めたりしながらごろごろしていたら、昼過ぎに直江がやってきた。 もちろん合鍵なんてないから、『力』で鍵を開けたようだ。 連絡がないから見にきたといい、実に彼らしい細やかな心配りで、病人に足りないものを整えてくれた。 果物のゼリーのスプーンを咥えながら片目で伺うと、転がっていた風邪薬の空き箱や、きっちり洗った形跡のある粥の鍋や器は見て見ぬふり、なのはたぶん彼にも千秋にも都合のいい想像でスキマを埋めてくれたのだ。 だいぶマトモにもどった視界を確かめながら、千秋はドアフレームに縁取られた台所にうつつの高坂の姿を探す。 と、直江が視界を横切った。 手のひらでクルマのキーをもてあそびながら、 「だいぶましになったようだから、一旦戻る。 つらくなったら連絡しろよ。鍵はポストに入れておく」 うん、ダイジョブ、さんきゅー、と三つの言葉をこめて、千秋は重い腕をあげて挨拶した。 頷いて、直江が去っていく。 ドアの閉まる音は、高坂のそれより少し重い。 (それにしても、幻みたい) あんな優しい高坂、ひょっとしてほんとうに幻覚だったのかも。 でももしほんとだったなら、いや実際ほんとなんだろうけど、次に会うときどんな顔をしたらいいんだろうか。 千秋はぐしゃぐしゃと髪をかきまぜた。 神妙に礼を言うのも、毒づくのもなにか違う。 色々考えていたら怖い想像になって、千秋はまたぱたんと枕へ倒れこんだ。 (これじゃ普通のカップルだろー) 冷静な自分がつぶやいた、それだけは認めたくなかったのだ。 |
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次に会った高坂がマスクしてたらおもしろいな、 と思ったんですけど マスクしてる高坂って目元だけしか見えなさそうで すごくあぶない雰囲気がする気がしました。 |