愛されすぎて怖い


 目覚めたのは、耳障りなビニール袋の音が部屋の中でしやがるからだ。
 がしゃがしゃ、と音はアタマの中に響く。
 出て行け。出て行け。念じても近づいてくる。
 と、いきなり額に冷たいものがぴたりと貼りつく。
 次に、唇につめたい指が触れた。
 思わず口をあけると、額を叩かれて頭痛が二乗になる。
 ぐぁんぐぁんと割れそうな頭の横で、
「指を舐めるな」
 機嫌の悪そうな高坂の声。
 薄目を開けると、ストローが差し出されていた。
「飲め、水だ」
 アタマが痛いのに、こいつの声は気持ちいい。
 そんなことを思う自分に嫌気がさす元気もない。
(ばかか俺)
 本能のままにストローを咥えると、冷たい水が上ってきて、ほんとはむさぼるように飲みたかったが、喉が拒否したのでそろそろと吸い上げた。
「ゆっくり飲め、気管に詰まる」
 命令形だが声音がやわらかいのは気のせいか、声をひそめているだけなのか。
 ストローを口から離すと、あの絶妙にやわらかい指が首を伝って、熱の具合を確かめた。
「腫れてるな」
 一人ごちて、また背中を向ける。
 水は置いていってくれー。目で訴えても届かない。
 戻ってきた高坂は、また新しい水のペットボトルを指先にひっかけていた。
 ぷちぷち聞こえているのは薬のパッケージから錠剤を取り出す音か。
 高坂は自分でペットボトルを煽って、口に水を含んだ。
(おい、まさか)
 そのまさかだ。
 アタマを抱えられて、冷たい唇を押し付けられる。
 抗うすべなく、その冷たさを受け入れるために開いた口に、少しだけぬるい、でも冷たさを感じるには十分な水と、ごつごつした錠剤がすべりこみ、びっくりするくらいスムーズに喉の奥に流れていった。
(どんな魔法だよ)
 飲み込む痛さが微塵もない。
 水のほうがひっかかって染みて痛いぐらい。
 アタマをそっと枕に横たえられて、千秋は息を漏らした。
 なんでこんな優しいんだろとか、なんか下心があるからではとか、考えたくない事柄をまとめて隅に寄せて紐で縛って立てかけておくイメージ。
 それはとにかく置いといて、人がそばにいることに安堵している。
 寂しいなんてまず思いはしないけれど、孤独が平気、と誰かがいて嬉しい、とはまた別なんだと冷静な自分が分析していた。
 渇きが癒されたのに満足して、また眠りの波が押し寄せる。
 千秋は抗わずに瞼を閉じた。
 このまま全部が終わってしまえばいい。
 自分さえ、すべてなかったことになればいいのに。


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