曼珠沙華の咲く丘で


 いまの武田の拠点は、田園風景が延々と広がる山間の農家だった。
 かつてはかなりの豪農だったらしく、部屋数には不自由しないし、
過疎が進んでいるのか人の住む家が近所になく、
いきなり屋敷に出入りが増えても近所の目が煩くないのがいい。
 そこでリハビリのように現代の生活に慣らしながら、少しずつ、現世に蘇った仲間が増え始めている。

 高坂は腕組みしながら、宴の様子をじっと見詰めていた。
 座敷では宴もたけなわ、蘇った武将や家来たちが杯片手に陽気にさんざめいている。
 ひとびとの格好こそ現代ではあるが、その光景は戦国時代となんら変わりない。
 光と背中合わせの影の闇の深さとか、
ふと部屋の外にでたときの、暗く沈む夜の庭の静寂とか。
 秋の虫が煩いほど鳴いている。
 庭の鈴虫の声を背に、障子の前で物思いに沈んでいると、
「高坂殿」
 不意に声をかけられた。
 視線を上げると、柔和な顔つきの中年の男が、杯を片手に静かに高坂の隣に腰を下ろす。
「どうかなされたか」
「内藤殿」
 高坂は少しだけ目元をやわらげた。
 釣られたように、内藤昌豊も微笑を浮かべる。
 姿かたちはちがえど、明かりに照らされたやさしい皺の深さが、昔のままのように思えた。
「まるで夢のようですな。
 死んだはずのわれわれが、このようなところで美酒に酔っておる」
「ええ、よもやこのようなことになるとは」
 高坂が笑みを浮かべると、不意に内藤はまじめな表情になった。
「高坂殿、変わられましたな」
「はて、どういうことです」
 高坂は内心はっとしたが、とぼけて尋ね返す。
 内藤は探るように、高坂の整った顔を凝視している。
「目元が鋭くなられました」
「なるほど」
 高坂は目を伏せて、艶やかな笑いを浮かべた。
「それがしはこの400年、お屋形様のために時を探り続けておりましたゆえ。
 少し気が短くなったかもしれませぬな」
「なるほど」
 云いながらも、内藤はまじまじと高坂の顔を見詰め続ける。
 高坂が眉をしかめかけたのに気づき、内藤ははっとしたように頬を緩めた。
「失礼いたした、それにしても綺麗な顔をしておられる。
 昔を思い出しますな」
 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、胸を突かれたような顔をして、
 高坂はくすぐったそうに、寂しげに、首を竦めて困ったように笑う。
 そのつつましやかな横顔に、春日源助を重ねたか、内藤は懐かしそうな目をしてぐいと杯を傾けた。