曼珠沙華の咲く丘で




 翌日は快晴で、一日は戦まえの準備を思わせる活気とともに、にぎやかに過ぎ去った。

 夕焼けが西の空を真っ赤に焼いている。
 縁側でふとその色に目を留めて、
「少し風にあたりに行くか」
 不意に信玄がそう言った。
 高坂は一瞬、不思議そうな顔をしたが、
「ではそれがしが車を出しましょう」
 部屋を出て行くその背中を追いかけた。

 風の匂いが秋の気配に変わっている。
 色づき始めた田んぼの輝きは、四百年前と変わりない。
 信玄がおもしろがって高坂に買い与えた小型のオープンカーは、幌を開けて、黄金色に縁取られたまっすぐな農道を早すぎず、遅すぎずの速さで進む。
「これは馬の速さじゃな」
 風に目を細めていた信玄が、満足そうにつぶやいた。
「そういえば、この時期はよく遠乗りに出かけましたな」
 右腕をドアに乗せて頬杖をつきながら、左手でハンドルを握る高坂も微笑する。
 この時期は、農作物の出来を見るついでに共に馬を駆けさせたものだ。
「今年は豊作のようじゃな。
 もっとも、最近は飢饉などとんと起こっておらぬようだが」
「そうですな、稲は悪天候にも負けぬよう、だいぶ改良されましたし、気候も以前のように極端ではないようですな」
 こたえる高坂の絹糸のような髪を、やさしい秋風が舞い上げている。
 信玄はしばし、見とれるように高坂の横顔をじっと見詰めたあと、前方に見える、こんもりと木を茂らせた低い山を指差した。
「あの山のあたりに行ってみぬか。
 このあたりが見渡せようぞ」
「御意」
 高坂はアクセルを踏み足す。
 スピードを上げ、車は秋の空気を裂いておだやかな秋の風景を流していく。






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