マンションに着く前ぐらいから、綾子がもぞもぞ動き出し、高耶の様子もなんだか雲行きがあやしくなってきて、千秋はいやな予感がした。
「……あのさ」
千秋の言いかけた言葉をさえぎり、
「えへへ。……トイレ借りていい?」
綾子の顔が青ざめている。言わんこっちゃない。かと思えば、
「なおえ……なんか、気分わりぃ……」
高耶は高耶でグロッキー気味だ。
「おまえ、リバースだけはすんなよ」
千秋は釘を刺しつつ、マンションの前に横付けされたクルマを降りた。
運転席の窓を開ける直江に、
「ここで待てる?
景虎連れてくる?」
「高耶さんを連れて上に行ってもいいなら、適当にこのあたりのパーキングに止めたほうがいいか」
直江は振り返って、後部座席で横になっている高耶の様子を伺った。
「ベンツ汚したくなきゃあそうすんのがいいんだろうけど、
……うちの使用料、高いぜ」
千秋は本気で、苦笑して頷く直江を睨んだ。
「ちあきぃ、早く早く!」
綾子がオートロックのドアの前で足踏みしている。
千秋は諦めたように窓越し、
「地下駐車場、いまレパードちゃんが車検でいねえから止めとけよ。12番」
「すまん」
直江が言うのを背中で聞きながら、千秋はしぶしぶエントランスに向かった。
「はー、すっきり」
言いながら、綾子がソファにひっくり返る。
「あ、ばか!寝るな!寝る体勢に入るな!」
言う千秋の声もなんのその、30秒で夢の中だ。
唖然としていたらインターフォンが鳴り、まもなく直江と、捕まえられた宇宙人みたいにぐったりしている高耶が現れた。
「水飲ましとくか」
「悪いな」
直江が言いながら、千秋の差し出すグラスを手に取った。
綾子がソファを占領しているからには、高耶は床に横たえるしかない。
「どうすんの、ホテルに連れて帰るの?」
「クルマに乗せるのはちょっと怖いな」
言いながら、直江は高耶の襟元を緩めてやる。
確かに、もし戻しでもして気管に詰まらしたら怖いのは怖いが、それ以前に保護者面するならそこまで飲ませるなとも思う。
千秋は肩をすくめ、
「俺も布団に寝かすのはこえーから床に転がしとこ。
直江どうする?ホテルに戻る?」
「まあ、落ちついたら運んで帰ろう。
おまえは気にしないで寝るなりなんなり」
「気にしないで、って……」
千秋はがくりと肩を落とした。