おもいだせるおもいだせない


 そのまま眠ったのにも気づかなかった。
朝、すがすがしく目覚めて、その理由を考える。
 適度の運動と酒と、気になっていた問題の解決。
確かに昨日、打ち上げはした。したが……!
「えーと……」
 ベッドから半身を起こし、思わず口から漏れた言葉は、視覚化できたならば本心の全てを映してダークグレーだったに違いない。
 開いたドアから見える、リビングに屍累々。
 後ろを振り返って、思わずベッドの枠に頭を打ちつけた千秋である。
 ちゃっかり千秋のTシャツを着た華奢な男が、にやにやしながらじぶんと同じ布団に入っていた。
 一瞬寒気を覚えながら、
「なんでお前までいるかなあ……!」
「おまえに招きいれられたのだ」
 ひじ枕をして、部屋の惨状をずっと眺めていたのだろう。
 千秋は思わず痛みを覚えたこめかみを抑えながら、
「招くわけなかろーが!嘘を言え嘘を!」
 そしてはっとして、
「つーか、なんでお前が一緒に寝てるんだ!」
「冷たいな安田の、私とお前の仲ではないか」
「あほかあー!!」
 怒鳴り声も腹に力が入らない。
「あーもう、うるさい!千秋!」
 直江の向こう側、ソファにころがっている綾子が、酒で枯れた声を上げる。
「……」
 おとなしく黙って、千秋は一瞬のうちにいろんな計算をした。
1、気づかれないうちに速やかに高坂をたたき出す。
2、協力してこの機会に高坂を調伏。
3、このままもう一度寝て忘れたら高坂も消えてる。
4、その他。
5、その他。
6、その他……?
(だめだ、アタマがまわらねえ)
 高坂はその思考が手に取るように分かるのか、唇の端で笑いをこらえている。
 むっとしながら、脳みそはしっかりアルコール漬けになっているのを自覚する。
それにしても部屋の空気が酒臭い。
「つーかお前、直江に見っかると面倒だから、とっとと出てってくんない?」
「安田はつれないなあ」
 ニヤリと笑うその色気に、瞬時に全身に鳥肌のたった千秋である。
「俺はなあ、男と同衾する性癖はねえんだよ」
「時代に流されるな、安田」
 しれっと言う高坂の口を、千秋はぎゅうっとつねり上げる。
「てめえ、時代とかそういう問題じゃねえだろ、ああ?」
 変な顔のまま、高坂は腹の底から笑っているようだ。
 不意にリビングのほうで動きがあった気がして、千秋は高坂を布団に丸め込んで飛び起き、隣の部屋へ移動して後ろ手に寝室のドアを閉めた。
 やはり、直江が目を擦って覚醒しようとしている気配。
綾子もうんうん言ってはいるが、目覚めるのもそう遠くなかろう。
「長秀、ほかに誰かいるのか?」
 寝起きとは言え、直江はさすがに聡い。
「い、いやあ別に。隣の家のテレビかなんかじゃない?」
 これほど自分のことばが白々しかったことはここ数十年ないだろう。
「ああ、もうこんな時間か。
 すまない、すっかり寝込んで」
「まあ、疲れてっから仕方ねえだろ。
 ホテル帰ってシャワー浴びても、まだ少しぐらい寝れるんじゃねえの?」
「そうだな」
 直江は足の上で寝息をたてている高耶の顔に目をやって微笑を浮かべた。
「二日酔いじゃないといいんだが」
「ついでにねーさん送ってってやれよ」
「ああ、そうするか」
 応える直江をよそに、千秋は高耶の襟首を掴み上げて頬をぺちぺち叩き、起きないので思い切り揺さぶってやった。
「うがー……気持ち、悪―……」
「お子ちゃまが気張って飲みすぎなんだよ、ばーか!」
直江は苦笑しながら立ち上がり、綾子を起こしはじめた。
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