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だが勝負は勝負、ルーレットが安っぽいプラスチックをひっかきながら回るのを、高坂は意外にも真剣なまなざしで見詰めている。 片手を床につき、逆の手でときどき湯飲みの酒をなめるしぐさも色っぽい。 千秋はひっぱってきた掛け布団の上に、すっかり湯冷めしたからだを投げ出し、両肘をついてゲームに興じた。 「2こま。……ほう。政治家になる」 高坂が黄ばんだ白い車を指にはさみ、とんとんと進ませた。 「はあ、政治家ね。 得意じゃん、暗躍。似合ってるぜ」 『TVタレントになる』の欄に止まった自分の赤い車を指でつつきながら、千秋はにやりと笑った。 高坂はむっとして、 「おまえよりはるかに堅実そうだが」 「現実はどっちもどっちだよ」 こちらも真顔で言い返して、千秋ははっとした。大の男二人、なに遊びに真剣になっているのだ。 つとめてゆるい口調を作り、 「ま、実際のとこ、職業なんて考えたこともなかったな」 千秋は冷蔵庫から出してきたビールをぐいと飲み干すが、 「だが生きていく上では、金は大事だ」 神妙な顔で、高坂が安っぽい紙幣を給料分、『銀行』、もといゲームの箱の蓋から優雅なしぐさでつまみ出す。 「おまえ、ほんと真面目だねえ」 「貴様らと違ってな」 高坂は鼻を鳴らした。 千秋は一回高坂の車に『追突』して1万ドル徴収され、大不況で財産のはんぶんを没収され、自分の職に疑問を抱いてフリーターになり、子供が4人できて車がぎゅうぎゅうになった。 対して高坂は子供ふたりのピンがささった青い車、景気がよくなって株券一枚ごとにボーナスをもらったり、住む家を変えたくなって千秋を追い出してみたり、鼻歌交じりにかるがるとゴールに近づこうとしている。 千秋は酒もあってこっくりこっくりしながら、半ば惰性でルーレットを回していたが、高坂はやたら楽しげに、いいことが書いてあれば嬉しげに赤い唇で微笑み、そのたび千秋は少しの間、その横顔に見とれたりした。 |