不意に額を小突かれて、千秋ははっと目を見開いた。  また下がってくる瞼の隙間、千秋の止まったコマを指差し、
「どうする?人生最大の賭け、らしいが」
 尋ねる高坂の顔がにじむ。
 すでに夢か現か、
「うーん」
 応えながらも眠気が襲う。人生最大の賭け。
 言葉の響きだけが脳内を舞う。
 もしも失敗したならば、
(不毛の開拓地へ)
 でも一からの人生なんなら、そこでやり直すのも悪くないな。
 ピン、と音を立ててルーレットが止まる。
「おまえの負けだ」
 勝ち誇って高坂が笑う。
 千秋はちょっとむっとしたが、それも一瞬のこと、いきなり顔に冷たいゲーム盤が触れた。
 ごつごつとした山にぶつかって、散らばるプラスチックの安い車、生み育てた子供たち。
 床から見上げた高坂の顔が曇るのに、千秋はぼんやり見とれていた。
 その頬の冷たい肌、白く透ける……あの場所の冬のように、神聖に冷たい横顔。
 あの、すべてのスタートの。

 閉じた瞼の裏側で、刈入れの終わった大地に粉雪が舞う。
 肌を刺す木枯らしは灰色にけぶった海からの冷たい風。
 上越は冬の初め、春日山城が遠くに見えて。
 見上げる自分の兜の中か、どこかでチキチキ、とルーレットの音がきこえた。







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