サイレンス



 雨がそれ以外の音を遮断して、部屋の中の静寂を余計に際立たす。
 永遠のようにも思える夜中の重たい空気。
 音を最小に落として、ぼんやり二人で暗い色調の映画を見ていたら、いつもどおりソファを占領していた高坂がうたた寝を始めた。
 乱暴に揺さぶりながら、
「おい、ベッド行けよ」
 高坂が聞いているのに聞こえないフリをするのもいつものことだ。
 それにしてもいつの間にこんなに馴れ合ってしまったんだろう、千秋はため息をつきながらテレビを消し、高坂を乱暴に引きずって電気の消えた寝室に投げ込む。
「布団ぐらい入れるだろ?ああ?」
 暗がりで、のそのそ布団に這いこむ気配。
 5,6歩の距離ぐらい自分で移動しろ、と思いながら、踏ん切りのつかない気持ちはなんとなく分かる。
 だがそこで理解を示して何になろう。
千秋は首を振って、リビングの電気を消し、寝室に入った。
「もっと端に寄れ!端に!」
 言いながらぐいぐい押すと、くすっと笑われた気がして心外だった。
「お前さあ、泊まってっていいから客用布団買えよ、武田持ちで」
 呆れながら枕を取り返す。
 高坂が寝返りを打つふりをして近づいてきて、乱暴に口付けされた。
 相変わらず一瞬にして本能に火をつける、危険なキス。
「あのさ、アゴ押さえるのやめない?」
「位置がわからんだろう」
 大真面目に高坂が応える。
 千秋は腰に手を回し、温かい体を引き寄せた。
「なに、お前さん、やる気なわけ?」
「どちらでも」
 言うが、もう一度噛み付くようなキス。
 誘うようななまめかしい笑い。
「媚売るの、上手いね」
「どうだか」
 高坂が笑い混じりに吐き捨てる言葉の語尾がかなしい。
 千秋は苛めるように、
「存在自体が媚薬、ってキャッチはどう」
 高坂は首を振った。
「センスを疑うな」
 もう一度、挑み会うように唇を合わす。
(俺、もしかしなくてもほんとに慣らされてるな)
 千秋の理性がどこかでつぶやく。
 でも体はさがなくせつなく、この黒い髪の男を求めているのだ。
 単なる傷の舐めあいかもしれない。
 並の人生の何倍も、時間を過ごす感覚を共有できるものはそんなに多くないし、仲間ごっこは肌にあわない。
 高坂は使命や愛情や友情や、そんなべたべたしたものを通り抜ける不思議な力があるらしい。
 その力がほしい。その強さが。
「何を考えてる」
 高坂が低く耳元で囁く。
「お前が欲しい、ってことさ」
 千秋の答えに、高坂は低く笑った。


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